アズマ工業での業務の傍ら、手編み箒を作るようになった渥原さん。
彼が手編み箒に魅了されていくまでの過程、今何を学び、これからどんな箒を作りたいのかを取材しました。

箒作りを始めて1年近くなる渥原さんは、新しい挑戦も始めています。

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―長柄への挑戦

手編み箒を編み始めてからはずっと短柄ばかり編んできたのですが、山下さん(アズマ工業社長)からも「次は長柄ですね」と、背中を押していただいたので、勉強を始めました。

職人さんが編んだほうきを見て、作り方を学ぼうと試みたものの、櫛なしの短柄と櫛ありの長柄では作り方が全くと言っていいほど違い、中の構造がわかりません。
そこで、職人さんが編んだ箒を一本だけ解体し、構造や編み方を調べてみることにしました。

構造が分かったところで、まずは編んでみることにしました。
中玉(※)を編み、耳(※)と一緒に編んでいくと…。
中玉と耳を合わせるときに、編み目のずれが出てしまいました。早速壁にぶつかりました。
そこで、もう一度、解体した箒の観察をしました。穂の本数、編み目の位置を確認し、ほかの箒に目を向けると、どれも同じ。
ここで、編み方や穂の本数に決まりがあることに気づきました。
編む手順を図にし、それを見ながらもう一度編んでみると、編み目のズレはなくなり、なんとか形にすることができました。

左右を編んでから一つに合わせる

これまでもお話してきたように、僕の師匠はいつも「職人さんたちの編んだ箒」です(笑)。職人さんの編んだ箒は、本当にきれいです。

玉(※)の形の丸さもそうですし、一番は柄から穂に繋がる箇所のくびれがものすごくきれいだと。曲線と直線がきれいに融合されているような…。玉と玉の間に絶妙な空間もあって…。
メリハリがあります。僕の編んだ箒はのぺーっとしていました。

長柄は、短柄に比べ、胴の幅が広いので、最後の方は、箒を抱えながら編みます。短柄に比べ1.5倍くらいの時間がかかりますが、編み始めるといつのまにか夢中になって作業をしています。

これまで長柄を3本編みましたが、そのうちの一本を明治神宮に奉納しました。 「秋の大祭」にも参列させて頂き、奉納した箒が展示されている様子も見ることができました。参列された多くの方に、自分が編んだ手編み箒を見て頂くことで、新しい刺激にもなりましたし、もっとうまく編めるようになりたいという意識も強くなりました。

明治神宮で行われた秋の大祭り
渥原さんが編んで奉納した短柄箒と長柄箒

そういえば、最近、玉と玉の空間の作り方がわかったんですよ!
余分な茎を落として、玉と耳を一緒にするときに角度をつけることで、空間ができたんです!
日本各地に、吾妻箒では取り扱っていない様々なデザインの手編み箒があるんですよ。
見本にしたい箒や技術はたくさんあります。

長柄への挑戦、明治神宮への奉納。そして編むごとに原点である見本の箒に立ち返り、研究を続けています。さらに他の地域の伝統ある手編み箒にも興味を持っています。
次回も引き続き渥原さんへのインタビューをお届けします。



※手編み箒の各部位の名称 手編み箒は、玉と呼ばれるいくつかの束を編み込んだ上で、それらを一つに組みつけます。今回の記事に出てくる「中玉」・「耳」は以下の画像の部分に当たります。