松永 美香子 氏

手編み座敷箒を3年、棕櫚箒を1年手掛けている箒職人松永氏は、自然豊かな神奈川県相模原市で独立し、静寂が辺りを包む一軒家で黙々と箒を作っている。
箒職人になったのはまったくの偶然で、たまたま家の近くに箒工房があり、そこで箒に触れたことがきっかけだった。
モノ作りが好きな性分が幸いし、自分の感性が生かせる箒づくりに一気にはまっていったそうだ。


松永 美香子 氏
「祖母の実家が奄美大島の機織り工場だったそうなのですが、結婚を期に関東の方に出たまま、その後は携わらなかったようです。私も機織りがしたいなぁ、と漠然と思っていました。モノ作りがしたかったのだと思います。作るものは違いますが、箒も作っていて面白いですね。」

--- 松永氏によると、箒づくりの魅力は「使用感」と「手作りの美しさ」にあるという。


松永 美香子 氏
「箒は実用的なものなので、使い勝手の良さが何よりも求められます。ただそこに見た目の美しさが備わっていることが大切だと思います。」
「箒を作っていて楽しいと思える瞬間は、思い描いた箒が作れた時です。」

--- やさしく語る松永氏だが、箒への想いは他者とは一線を画し、手編み座敷箒で修業を重ねた後、棕櫚箒づくりも手掛けるようになった。
座敷箒も棕櫚箒も作れる松永氏は、業界でも稀有の存在だ。


松永 美香子 氏
「手編み座敷箒の原料はほうきモロコシの草、棕櫚箒は文字通り棕櫚の皮(繊維)からできていますが、それぞれに面白さがあります。たとえば、座敷箒の場合は草を持った時の感触が違います。仕上がりを想像し、穂を選別しながら編み込んでいきます。」

「棕櫚は、繊維の『表情』が違うんです。一本一本の細やかさが違います。それをどう捌くか、そこに面白さがあります。」

--- 実は棕櫚箒づくりを始めるにあたって、特別な縁があった。
かつてあまり弟子を持たなかった92歳の師匠から、弟子入りを認められたのだ。


松永 美香子 氏
「理由は分かりませんが、弟子入りを認めてくださいました。本当に丁寧に教えを受けています。作る上でのコツやポイントを教えて下さいます。締め具合、繊維のほぐし具合など、ちょっとしたことで棕櫚箒の使い勝手が変わってきますから・・。感謝の気持ちしかありません。」

--- 日々数をこなしながら、師匠の言葉を体中に沁みこませている。

今後の抱負について松永氏は、笑みをこぼしながら次のように言う。


松永 美香子 氏
「長柄をご購入されたお客様が掃いた瞬間にハッとされて、『この価格では安い』とまで仰っていただいて、本当にうれしかったです。」

「それに8歳のこどもがいますが、一生懸命に箒を作っている姿を見てくれています。恥ずかしくない仕事をこれからもしていきたいと思います。」

---松永氏の箒は、「使い勝手と見た目の美しさ」、このシンプルな言葉に様々な想いや技を凝縮させたもの。
座敷箒と棕櫚箒、どちらも手掛けている強みを活かし、それぞれの良さを引き出しながら、今後も精進の日々が繰り返されていく。

(2020年取材)

経歴

2015年 箒屋に、箒を作りたいと門を叩き、内職として小箒を作り始める

2016年 箒屋の従業員として従事

2017年 棕櫚箒を40年以上作り続けている、当時92歳の師匠に手解きを受ける

2018年 箒職人として独立