座敷箒の主原料であるほうき草(イネ科)は畑で栽培されます。現在そのほとんどがタイ・インドネシア・中国で生産されており、日本での栽培は数反かと思われます。
海外の中でも肥沃な大地を持つタイでは良質な穂を収穫することができ、日本で流通している大部分の箒にタイのほうき草が使われています。


タイでは年に2回、ほうき草を栽培し、6~7月と2~3月にかけて収穫します。
特に、タイ北部は土に含まれる栄養分が多く、均一に整った柔らかい穂が収穫できます。
補足)ほうき草のルーツは朝鮮とも言われ、1800年代に朝鮮通信使によって日本(江戸)に持ち込まれたと言われております。
1840年代以降、特に関東一円でほうき草の栽培がさかんになりましたが、戦後、掃除機の普及に伴って需要が急激に落ち込み、海外生産に移行しました。
しかしながら、ほうき草の栽培及び箒の生産、そしてそれらの技術及びノウハウは江戸時代より日本で育まれたものです。

ほうき草の栽培

ほうき草を作るにあたって、まず土づくりから始めます。
窒素系の肥料と土をよく混ぜ合わせ、土を耕します。
その後、一定の間隔で浅め(種が隠れる程度)の穴を掘り、一つの穴に10~15粒、種を蒔きます。
一定の長さになった段階で、4~5本になるように間引きしておくと、種蒔きから約75日でほうき草を収穫できるまでに成長します。

ほうき草の収穫

残念ながら一本の茎には一本のほうき草しかできません。
それを一本一本収穫した後に、ほうき草についている種を専用の機械を使って取り除きます。
その後、風通しの良い場所で約3日間天日干しします。
この天日干しが不十分だと穂が硬くなったりします。

ほうき草の選別

乾燥後、穂の長さや状態により3段階に選別し、箒生産工場へ運びます。
箒生産工場にて、煮沸と染色が行われた後、さらに選別します。
煮沸工程は必須で、煮沸をしないと、ほうき草の成長が止まらず、硬い穂になってしまいます。
一方、染色工程はない方がより柔らかい穂ができますが、そのままだと蛍光灯の光で穂が日焼けすることがあるため、日焼け防止として行われています。

箒の生産:編み上げ

ほうき草を一定の量で束ね、それを複数用意します。
それを串に通して固定し、編み上げます。
一本の箒を編み上げるのに、熟練者であっても1日最大20本です(通常は10本できるかどうかです。また箒の種類によっては1日1本の場合もあります)。

箒の種類により編み方が異なりますが、いずれの場合も、職人の経験と勘が最も大きな影響を与えることになります。
ほうき草は一本一本が同じ重量でなく、太さ・風合いも異なるため、それらを職人が自らの手の感覚だけで仕分け、編み上げていくのです。

箒の生産:乾燥

箒を編み上げる前に、穂を水に浸け柔らかくしていますので、編み上げた段階で、天日干しを半日~1日行います。
ここでの乾燥が不十分な場合、特に穂の根元部分にカビが発生することがあり、今までの苦労が全て台無しということもあります。

箒の生産:刺繍

箒の生産は昔から分業で行われており、仕上げとしての刺繍縫いは専門の職人が行います。
乾燥した箒を全体のバランスをみながら丁寧に刺繍縫いします。
ここでは刺繍の見栄えがもっとも重要視されます。

箒の生産:最終仕上げ

刺繍を施したのちに、穂先を専用のハサミで切り落とし揃えます。
その後、最終仕上げ者が全体を見渡し、糸処理や穂のばらつき、刺繍のゆがみ等があれば修正します。
これでやっと完成です。

一つの箒を作るまでにたくさんの人が関わり、それぞれが専門性を発揮して、箒を仕上げています。